ベーチェット病とは
新しい治療
近年のベーチェット病診療の最大の進歩は、ぶどう膜炎に対してインフリキシマブの有効性が証明され、世界に先駆けてわが国で2007年より保険適用になったことです。
このインフリキシマブはキメラ型の抗ヒト腫瘍壊死因子(TNF)抗体で、ベーチェット病の病態の中で悪玉として働くTNFの作用を阻害します。ベーチェット病のほかにも関節リウマチや炎症性腸疾患であるクローン病に使われており、従来の薬剤では考えられなかったような素晴らしい効果を示しています。
安全性を解析するために全例市販後調査が義務付けられています。メーカーの発表では2008年2月23日現在、252例が登録され、半年以上の経過した113例について調査票が回収されています。発作回数は投与直前の半年で3.31回であったものが、開始後に0.72回まで減少し、全般改善度も改善、やや改善が80%を越え、不変も加えるとほぼ100%です。この成績は期待に違わぬものと言えます。
本来、TNFという物質はベーチェット病や関節リウマチでは悪玉として働いていますが、感染症に対する生体防御、体の抵抗力の維持に重要な物質でもあります。したがって、このTNFを抑制すると感染症にかかりやすくなりますので、感染症がこの薬剤の最大の副作用です。特に結核は昔かかって今よくなっていても、この薬剤の使用とともに再燃することがありますので、インフリキシマブの投与前には内科医に受診の上、胸部レントゲン、胸部CT、ツベルクリン反応など十分なチェックが必要です。結核の既往や疑いがあるときは、抗結核薬を予防的に投与しながら、インフリキシマブ治療を行うことになります。B型肝炎や非結核性抗酸菌症などを合併しているときには、残念ながらインフリキシマブは使用できません。そのほかの副作用としては、インフリキシマブ投与時のアレルギー反応があり、重篤な場合はアナフィラキシーショックという状態が起こることもありますので、点滴中に異常があれば、すぐに看護師、医師に伝えて下さい。
市販後調査の結果では重篤な副作用は2/113(1.83%)とされています。実際、合併症や併用薬の多い関節リウマチの患者さんと比べると、ベーチェット病の患者さんは比較的安全にインフリキシマブ治療ができという印象はありますが、油断せず、定期的にチェックを受けることが重要です。
1.投与スケジュールと併用薬
現在、インフリキシマブの投与スケジュールは関節リウマチに準拠し、0、2、6週に投与したあとは、2か月間隔で、その投与量は 5mg/kgが標準です。治験はシクロスポリンからインフリキシマブ単独への切り替えのデザインだったのですが、市販後にはインフリキシマブ単独とシクロスポリン併用が相半ばしているようです。ヨーロッパリウマチ学会の推奨では副腎皮質ステロイド薬あるいはアザチオプリンなどの免疫抑制薬との併用となっています。その優劣については効果、副作用とも長期にわたりモニターした上で、検討していく必要があると思われます。
一部の症例では眼発作の出現を見ることがありますが、ほとんどがインフリキシマブ投与後6週以降です。こうした患者さんでは、関節リウマチの経験に準じて、治療間隔の短縮も試みられているようです。
一方、いつまで治療を続けるかという問題もあります。これは治験時のインフリキシマブ中断時にリバウンドと思われる眼発作の再燃が多発したことからも慎重に取り組む問題と思われます。関節リウマチでは疾患活動性を十分モニターした上で、離脱を試みる臨床研究も行われています。しかし、関節リウマチ場合は、疾患活動性の評価方法が確立していること、インフリキシマブを中止しても他の併用薬(主としてメソトレキサート)は継続することができることなど、ベーチェット病とは背景が異なります。また、症状の再燃にしても、発作を予知できる血液検査などの指標がないこと、関節リウマチに比べるとベーチェット病の眼発作の再発は臨床的なダメージが大きいことを考慮すると、現時点では、この薬剤をうまく使いこなすことが先決と思われます。いつまで治療を続けるべきかという問題は、副作用などで中断を余儀なくされた症例などの経過を解析した上で、今後検討していくべき課題と思われます。
2.他の病型に対する効果
ヨーロッパリウマチ学会の推奨での中で、インフリキシマブはブドウ膜炎だけでなく、腸管型、神経型に対しても治療薬として名を連ねています。この根拠になっている論文がケースシリーズといわれる研究で、エビデンスレベル(根拠としての信用性)があまり高くないことを考慮すると、逆にこの薬剤がいかに期待されているかがわかります。しかしながら、我国では保険適応になっていませんので、今しばらくは眼病変を有する患者さんでたまたま腸管型や神経型を合併している方のデータから、インフリキシマブの眼外症状に対する成績を蓄積していくことが重要と思われます。